介護支援専門員(ケアマネジャー)の実務研修で多くの人がつまずくもののひとつが「実習記録」。
利用者様との面談や情報収集を重ね、質の高い記録を作成するにはどうすれば良いのでしょうか。
本記事では、実習記録の目的からアセスメントや考察の書き方、具体的な文例などを解説します。
ポイントを押さえて実習に臨むことで、自信を持って実習を進められるようになるため、ぜひ最後までお読みください。
目次
ケアマネの実習記録とは?目的と評価されるポイント
ケアマネの実務研修で作成する実習記録は、学んだ知識を実践につなげたり、専門職としての思考を整理・言語化したりするためのツールです。
ここでは、ケアマネの実習記録の目的と、評価されるポイントについて解説します。
ケアマネの実習記録の目的
実習記録の目的は、主に以下の3点です。
思考の整理と援助の根拠の明確化 | 実習での学びや気づきを言語化し、なぜその援助が必要なのか、自分は次に何をすべきかといった思考を整理する。 |
客観的な振り返りと自己評価 | 記録を読み返すことで、自身の強みや今後の課題を客観的に把握し、次の学び・気づきにつなげる。 |
指導者との円滑な連携 | 指導者が実習生の状況を把握し、的確な指導をおこなうためのコミュニケーションツールとなる。 |
このように、実習記録は自身の考えを整理し、客観的な振り返りや指導者との情報共有を円滑にするための大切なツールになります。
評価されるポイント
指導者は、記録の上手さよりも実習生の思考のプロセスを見ています。
たとえば、神奈川県の場合は、以下の点が評価項目となっています。
- 介護支援専門員の倫理(人権の尊重、守秘義務の尊重)を理解している
- 規則の順守、連絡・報告等ができる
- 積極的、主体的に学習をすすめられる
- 適切にマナーが守れている
- 各ケアマネジメントプロセス場面の目的・目標を理解している
- 居宅介護支援事業所の目的・機能を理解している
これらはケアマネとして仕事をしていくうえで大切な姿勢やスキルを示しています。
実習記録には、こうした視点を持って取り組む姿勢を反映させることが大切です。
実習記録で必ず使うアセスメントと課題分析の書き方
ケアプラン作成のための大切なプロセスである「アセスメント」と「課題分析」。
ここでは、情報収集からニーズの抽出、課題設定までに実習生がつまずきやすいポイントを解説します。
「アセスメント」の書き方
アセスメントとは、利用者様の生活全体を多角的に把握するためにおこなう聞き取りや観察のことです。
利用者様やご家族からの発言(主観)と、実際の生活状況や観察結果(客観)を分けて整理することで、より的確にニーズを抽出できます。
「表面的なニーズに留まる」
利用者様の発言をそのまま記録するだけでは不十分です。発言と観察した事実を結びつけ、その背景にある思いや困難を探る必要があります。
たとえば、利用者様が「カレーを食べたい」と話した場合、ただ食べたいのではなく「調理を自分でしたい」という気持ちが隠れているかもしれません。発言の奥にある生活の希望や自立への思いを捉える視点が大切です。
※実業務におけるアセスメントに関する詳しい解説は、別記事『ケアマネジャーのアセスメントの重要性と進め方・記入例』をご参照ください。
「課題分析」の書き方
課題分析では、アセスメントで明らかになったニーズをもとに、ケアプランで解決すべき課題を具体的に設定します。
「原因の分析が浅い」
生活のなかで課題が見つかった際には、ただ「事実」を記録するだけでなく、「なぜそうなったのか」を深掘りして原因を明確にする必要があります。
たとえば、外出の機会が減った方がいた場合、「外出が減ったからどうしましょう」とすぐ対策を考える前に「なぜ外出が減っているのか」を考えます。
以下に挙げるような原因を分析し、その原因を解決するための対策がケアプランにつながります。
- 転倒の不安があるからか
- 意欲が低下しているからか
- 環境的に外出が難しいからか
【文例あり】実習記録の「考察」の書き方と深め方
ここでは、実際の実習記録の例文を、神奈川県の実習記録の書式に合わせて解説します。
なお、記録を書く際は、バイスティックの7原則やICFの視点を活用できるとより考察を深められます。
バイスティックの7原則
アメリカの社会福祉学者バイスティックが提唱した、相談援助における基本的な7つの原則。
利用者様の尊厳を守り、信頼関係を築くための原則で、すべての対人援助の土台とされている。
個別化受容非審判的態度意図的な感情表出統制された情緒的関与自己決定の尊重秘密保持
ICF
世界保健機関(WHO)が策定した国際的な分類。
その人の状態を健康状態や心身機能、環境面から評価する。
その人のできないことではなくできることに着目する
文例1:利用者様の生活背景を踏まえた考察
文例1は、同じような状態の利用者様をラベリングしてしまい、過去の経験に当てはめようとした結果、本人のニーズとは異なる対応をしそうになったケースです。
場所と内容 (場面を記載) | インテーク |
事前の実習目標設定 | 利用者様の希望を尊重しながら、生活背景を踏まえたニーズを把握する |
理解できたことや参考になったこと 指導者からの意見 | 以前関わった、同じような身体機能で全介助の方と似た支援方法を考えた。 しかし、今回の利用者様は「家事を自分で続けたい」という意欲が強く、背景が異なっていた。 指導者から「過去の事例をそのまま当てはめるのではなく、経験をもとにその方の背景に合わせた支援をすることが必要」と指摘をいただいた。 利用者様の個別性を捉える重要性を学んだ |
経験を積むほど、これまでの経験にあてはめようとしてしまいがちです。
利用者様は一人ひとりがそれぞれ違うことをしっかり意識できると良いでしょう。
文例2:援助目標につなげる考察の書き方
文例2は、モニタリングの場面での記録です。
場所と内容 (場面を記載) | モニタリング |
事前の実習目標設定 | 援助目標の達成度を確認し、次のプランに活かす |
理解できたことや参考になったこと 指導者からの意見 | 利用者様が「週に1回は自分で外出できた」と話していた。 外出の回数だけでなく「自分で出かけられた」という満足感が生活意欲の向上につながっている。 指導者から、数値だけでなくご本人の気持ちを含めて評価することが大切という指導を受け、ICFでいう「心身機能」と「参加」の両面を意識することが重要だと学んだ |
外出できたという達成感が生活全体に良い影響を与えているという気づきが、より質の高いケアにつながります。
【シーン別】面接・情報収集の記録の書き方とポイント
面接は利用者様の状況を理解する相談援助の出発点です。
ここでは利用者様とのコミュニケーションで得た情報をどう記録に落とし込むか、主観的・客観的情報の分け方といった実践的なテクニックを解説します。
シーン1:初回面接での主観的情報と客観的情報の整理
初回面接では、利用者様やご家族が語る内容(主観的情報)と、実習生が観察した事実(客観的情報)を分けて記録することが基本です。
両者を整理することで、発言の裏にある本当のニーズが見えてきます。
主観的情報 | 利用者様やご家族が話した希望、思い、訴え「最近、転ぶのが怖くて買い物に行けない」といった発言がある |
客観的情報 | 実習生が観察・確認した事実屋内を杖なしで歩いている、玄関に段差が2段あるといった状況 |
主観的情報と客観的情報を結びつけることで、「屋内は歩けるけど屋外にでかけるのは怖い」という状況が把握できました。
歩くことはできるため、玄関の段差と屋外の移動について検討することで、安全に外出できるための対策としてケアプランにつながっていきます。
シーン2:利用者様やご家族とのコミュニケーション記録
利用者様とのコミュニケーション記録では、言葉だけでなく非言語的な情報も重要です。
表情や声のトーン、ご家族とのやりとりや態度なども大切な情報収集の一環となります。
たとえば、「『大丈夫』と話すが、表情は硬く視線を合わせない」といった記録は、言葉の裏にある本心を探るきっかけになります。
また、「ご本人は困っていないと言うが、ご家族は介護負担を強く感じている」など、立場による意見の違いを双方の主観的情報として記録することも、多角的なアセスメントに不可欠です。こうした記録の積み重ねが、利用者様やご家族との信頼関係の構築にもつながります。
ケアプラン原案(第2表)の作成と援助目標の設定方法
実習では、アセスメントと課題分析を経てケアプラン原案(第2表)を作成します。
課題を具体的な援助目標に落とし込み、必要なサービスを計画する、実習の集大成ともいえる段階です。
課題から目標への転換
課題分析で明確になった「なぜ〇〇できないのか」という原因を「どうすれば〇〇できるようになるか」という視点に転換し、目標を設定します。
大切なのは、利用者様の「こうなりたい」という意向を尊重することです。
目標は、最終的に目指す「長期目標」と、そこに至るまでの中間的な「短期目標」に分けて設定すると、計画が立てやすくなります。
具体的な目標とサービス内容の記述
設定する目標は、誰が見ても分かるように、具体的に期限や達成基準を明確に記述します。
抽象的な表現や、非現実的な目標は避けましょう。
- ○の例「3ヵ月後、杖を使って近所のスーパーまで買い物に行けるようになる」
- ×の例:「リハビリを頑張る」(抽象的な表現)
- ×の例:「転倒しない」(非現実的な表現)
そして、その短期目標を達成するために必要なサービス(例:訪問リハビリを週2回、福祉用具のレンタルなど)を具体的に計画します。
「課題→目標→サービス内容」の全てにおいて、根拠をもってつながっていることが、質の高いケアプランの条件です。
実習指導者(バイザー)からのフィードバックを次に活かす方法
実習記録は提出して終わりではなく、その後のフィードバックをどう活かすかが大切です。
指導者の指摘は記録の誤りを正すだけでなく、自分では気づけなかった視点を学ぶ貴重な機会です。
たとえば「事実と意見を混同している」「利用者様の個別性が十分に捉えられていない」といった指摘は、改善の具体的なヒントとして受け止めましょう。
フィードバックを受けたら、内容をノートにまとめて次回の実習前に振り返ります。
指摘された点について、「なぜそうなったのか」と自身の思考プロセスを振り返ることで、自分の強みと改善点を整理でき、成長の実感にもつながります。
実習記録は「書く力」だけでなく、「学びを次に活かす力」が問われているともいえるでしょう。
よくある質問FAQ
まとめ
本記事では、ケアマネの実務研修における実習記録の目的と評価されるポイントから、アセスメント・課題分析、考察の書き方まで、具体的な文例を交えて解説しました。
実習記録は単なる報告書ではなく、援助の根拠を明確にし、自身の学び・気づきを深めるための重要な思考ツールです。
初めから完璧な記録を目指す必要はありません。
この記事で解説したポイントを意識して、利用者様と向き合うプロセスを大切にしてください。
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